エネループ騒動雑感

2013年2月28日

今日、Twitterのタイムラインをにぎわせた「eneloop」の新デザイン。
これまで大きく全面に打ち出されていたeneloopのロゴが小さくなり、Panasonicのコーポレートロゴが替わって大きく配置された。
パナソニック、繰り返し回数が伸びた「eneloop」と、容量が増えた「充電式EVOLTA」
見た瞬間、さすがはパナソニックと思った。
せっかく三洋電機時代に「ちゃんとしたデザイン」をして大ヒット商品に育て上げたブランドイメージを大枚はたいて手に入れておいて、わざわざドブに投げ捨ててしまう、そういう「のれん・ブランド」に対する価値観はさすがとしか言いようがない。エネループというブランドを何が何でも抹殺したかったのなら成功しつつあると言えるかも。
同じ三洋電機のブランドをまるっと手に入れたハイアールが、「AQUA」ブランドを小泉今日子をキービジュアルにして「中国製なのに意外と大丈夫なシンプル家電」というイメージに上書きしつつあるのと対照的。これは電通の入れ知恵なので、電通がよくやってると言うべきなのかもしれないけども。
パナソニックは2012年の正月に三社統合した際にPanasonicブランドを全面に推し出して、各製品ブランドには厳しいレベル分けを行う方針になった。三社統合を晩秋に聞いて「これで三洋電機とのおつきあいも最後やなぁ」と得意先をひとつ失う覚悟を決めたのもこの時。
P社のブランド体系の話はこちらの記事が詳しい。
三洋の統合でパナソニックのブランド戦略はこう変わった
このブランド体系の方針から言えば、エボルタブランドを差し置いてエネループブランドを残すなんて、話にもならないのかもしれない。ただ、しばらくはエネループを残しておいた方が得という判断があったのだろう。
パナソニックが「エネループ」ブランドを存続させた理由
ただし、これらの「事情」はあくまで会社の側の事情であって、消費者はそんなこと知ったことではない。
はっきり言って充電電池なんてどれも同じで、パナソニックだろうがサンヨーだろうが名も知らぬ韓国や中国のメーカーだろうが、充電できて使えるならなんでもいい、品質が同じで安ければもっといい。これが家電マニアでもなんでもない普通の人の感覚で、エネループの登場前までの充電電池への一般的な認識だった。
エネループはそこに分かりやすい売り文句で構成されたコンセプトとすっきりしたビジュアルデザインを持ち込んで「乾電池の替わりに充電して使える電池」というカテゴリを作り出した。エネループでアピールされたいくつかの特徴は、既存の三洋電機の充電電池に既にあったものが大半だったと思う。それに「コンセプトデザイン」を施してブランドをデザインマネジメントによって作り出したものがエネループだった。
詳しいことはよく分からないけれども、乾電池の替わりに繰り返し充電して使える電池はエネループというらしい。
家電に詳しくない一般の人にこう思わせれば大成功というもので、当時担当していた文芸雑誌に毎月掲載する記事広告、そのテーマに数ヶ月にわたってエネループが指定され、私自身、「電池の替わりに…」「繰り返し使える…」「電池を捨てない生活を提案…」と毎月飽きもせずに本文コピーを書き続けた。他の雑誌広告やTVCM、ウェブサイト、カタログ、ポスターの担当者が同じような作文を書いていたはずだ。
その甲斐あってか、エネループは繰り返し充電して使える電池の代名詞になった。家電に詳しくてブランド買いする人はもちろんそのブランドを買うが、細かい充電電池の種類など分からないけれども間違いのないものが欲しい人は「とりあえずエネループ」で、とにかく安いものが良ければ中国製などのノンブランド品という棲み分けだ。
私などはこの「とりあえず」と言ってもらえることの価値は何物にも替えがたいと思うのだが、偉い人はそう思わないらしい。やはり町の片隅で細々と糊口をしのいでいるデザイナーと国際的な企業の経営陣とでは物の考え方が違うのだろう。
2013.3.4 追記しました。
ここからは、エボルタのデザインについて勘違いした状態で書いています。お詫びの上、訂正いたします。
もうひとつ、パナソニックの電池に関してはもやもやしていることがある。
とにかくPanasonicの字が大きくて、電池の種類が分かりにくい。エネループなのかエボルタなのか。エボルタでも乾電池と充電式の一目見て分かる差はラインの色だけ。
これはブランド戦略とかいうふわふわした話ではなくて、もっと生の話。
家電製品の安全な使い方に関する啓蒙活動、これは各メーカーで行わなければならない。愛情点検マークや重要なお知らせマークなど業界共通のマークを使ったり、春の交通安全週間のような運動期間があったりする。経産省の指導によるお堅いものだ。
電池と充電電池に関する事故として超定番なのが「充電電池用の充電器に乾電池を入れて充電してしまう」もの。起きる現象は液漏れ、発熱、破損。発熱した状態でそこにカーテンがかかっていれば火災につながる、嫌な事故だ。
私が子どもの頃大人気だったミニ四駆というおもちゃがあったが、そのオプション商品、タミヤ製充電電池用充電器には箱にも取説にも本体にもうるさいほどに「乾電池は充電しないでください」と書いてあった。
この事故が起きるのを防ぐために、各電池メーカーは長年にわたって様々な啓蒙活動や工夫をしてきたと思う。
現在エボルタには乾電池と充電式の二種類があり、緑のラインが入っているのが乾電池でオレンジのラインが入っているのが充電式だ。なぜ緑が乾電池でオレンジが充電式なのか、私にはすぐに理由が思いつかない。ということは、緑が乾電池でオレンジが充電池とわざわざ記憶する必要があるということだ。
パッケージに入っていない状態でぽんと1本だけ目の前に置かれたら、乾電池なのか充電式なのかぱっと見て判断できるのは相当買い慣れている人だろうと思う。本体に種類は書いてあるだろうが、細かい字は老眼の人には見えないものと思わなければならない。
事故を防ぐ仕掛けがとにかく少ない。子どもやお年寄りがうっかり乾電池エボルタを充電式エボルタと勘違いして充電器にセットしてしまってもしょうがない。
わざわざ事故を誘発しやすい商品構成にするというのは、ちょっと理解しがたいものがある。カスタマーセンターに持ち込まれるトラブルの件数を増やしたいのだろうか。マゾい、あまりにマゾい。
エボルタは「長持ちする乾電池」というコンセプトで長年進化を続けてきたブランドだ。
先に書いたように、エネループは既に充電電池としてのイメージを確立している。
それなら、充電式エボルタをエネループプレミアムだかエネループプロ(って限定発売してたっけ)だかにして、充電電池はエネループに統合し、パナソニックの電池は「長持ちする電池=エボルタ」と「繰り返し使える電池=エネループ」という二本柱に、電池本体はエボルタは青地に白の文字、エネループは白地に青の文字、各ブランド名のロゴを大きく入れた方が安全面でもイメージの訴求面でも効率が良いように素人目には写る。
くどいようだが、市井の一般人と家電のプロとでは物の考え方が違うなと思った。
追記(2013.3.4)
@panja0829さんより、エボルタのデザインについて誤認があるとご指摘いただきました。わざわざお知らせいただき、ありがとうございました!


確認しました。Panasonicのエボルタサイト(2013年3月時)より。
スクリーンショット(2013-03-04